随分、長い間ご無礼いたしました。
漸く時間の余裕が出来ましたので、この欄を再開いたしたいと思います。
去る、七月一日、第三四回式年遷宮事業により、奈良時代に成立したとみられる「禮殿」造替が竣工しました。御祈祷所の調度品を整えるため準備中、これほどまで日本人の生活様式の歴史や知識を失っている現代人に驚きました。
そこで、とにかく一つでもよいから思い出していただくため、今回はこの欄で記させていただこうとおもいます。
ご自宅の台所の備品で先ず必要な物といえばテーブルとか倚子でしょう。
そこで、下鴨神社の倚子ついてみてみましょう。
古代の宮中や下鴨神社の公の儀礼は、殿内でおこなわれることが多く、時には賀茂祭のような庭上儀礼もありますが、その時は殿上と同じ調度を用いられていました。
まずは、殿上にては、倚子(いし)『掃部寮式』、という「凡そ庁の座は親王及中納言以上は倚子。五位以上は漆倚子(ぬりいし)。自余は白木床子」とあるように、行幸親拝、勅使参向などのおりに用いられています。
床子(しょうじ)『木工寮式』、大床子・小床子・檜床子とあります。
兀子(ごっし)『江家次第』四角と円形の二種があります。殿上、庭上ともに使用しています。床子とともに、賀茂祭など官祭、氏神神事の御蔭祭を問わず常に用いています。
草墪(そうとん)『日本の古典』藁(わら)を芯に錦など布で包んだ、円筒形の腰掛け。主に、忌子女、雑子女、陪従、神楽人の席に用いています。まさしく殿上においても、草に座っている感じがするとの意見が多いです。
庭上用としては、胡床(あぐら) 『源氏物語』胡蝶巻「胡床どもを召したり」とある脚を打ち違えにして、上に皮を張った、折りたたみ式の腰掛けのことです。官祭の庭上儀礼では、四位以上は、ヒョオの皮を被せ、五位はトラの皮、などと決まりがあります。さらに、胡床の敷物には、菰の上に絹類、上布類の織物を敷きます。これを衿(きん)と言います。大納言、中納言など殿上人が庭上儀式に参役するときの座です。
その他にも円座(わらふだ)『和名類聚抄』「わらふと」とあります。菅(すげ)、藺(い)、菰(まこも)などの葉を渦巻き状に巻き、平たく編んだ敷物のことです。
一般には、脇息(きょうそく)、と呼ばれていますが、「軾」(しょく)と言います。『東大寺献物帳』に「紫檀木画挟軾」とあります。膝の前に於いて何通もの祝詞などをおく台です。『源氏物語』若紫巻に、「経を置きて」などとあります。また平安初期には、やや小さめで蒔絵を施し中程を湾曲にして腰の脇に置くなどの「軾」の補助具もあり、この方は市民の生活にとり入れられました。
さらに、近世には、「軾」(ひざつき)と称し、殿上の敷物として使用されています。ただし、殿上は布製で庭上がたたみ製、縁を高麗縁などと、他文化の影響を受けています。